厚生省事務次官経験者殺害事件とテロ報道について
厚生省事務次官経験者殺害事件とテロ報道について
最近ははっきり言ってネタがない。
国会はねじれ国会のままで、正当な理由もなく反対している民主党と、それに対処できない与党という構図が変わらない。少々変わったのは、党首会談後、参議院で民主党が「第二次補正予算案を出さなければテロ特別措置法の審議に応じない」と、あまり因果関係のない二つの法案を引き合いに出して審議拒否をしたのに対し、共産党と社民党が野党協調を破り審議に応じたという事である。以前からここの文書では書いているが「審議拒否」という職場放棄を正当化するのは、いかがなものかと思う。少数派が時間稼ぎを行うのは、それ以外注目されたり、自分の主張を大きく取り扱うことが少ないという点で、賛成はしないが理解はする。しかし、参議院における民主党はそのような状態にはない。参議院で言えば与党である。与党が審議拒否を行うという事に関し、いささかも疑問に思わない日本国民には、少々失望する。
いずれにせよ、相変わらず無責任な批判政党でしかない民主党と、そのような反論も跳ね返し、国民の支持を取り付けることができない与党の関係では、新たな動きが生まれることもない。どんどんと日本は「負け国」として国際社会から取り残される可能性を示唆している。
さて、そのようにネタがない時に、かなりショッキングな事件が発生した。
年金のエキスパートと言われ、年金局長や厚生省事務次官を歴任した団体役員が夫婦で殺害されたのである。その翌日には、やはり同じようなキャリアを持つ元厚生省事務次官の妻が、刃物で刺され、命に別状はないと言いながらも、重傷となった。
時あたかも年金問題で国民の多くが不満と怒りを持っており、また完了の無駄遣いに関して大きく報道されているときに、年金のエキスパートと言われる厚生省事務次官経験者が二人もねらわれたのである。この件に関して、マスコミ各社は年金テロとして大きく取り上げた。
マスコミの期待するように、テロの捜査は続いた。血の付いた足跡がある。または印鑑が落ちていた。犯人は宅配便を装った潜入などである。大きな組織的な関与を疑う論説もあった。
被害者の年金エキスパートで事務次官経験者という経歴の共通性や、婦人まで行う残忍性など、犯行手口にいたるまで二つの事件の共通性と、年金行政との関連を報じた。政府は現職の官僚を含め、退官者まで警備を強化するという発表にいたった。実際厚生労働省の警備はかなり厳重になっている。
さて、この事件は突然思いもよらぬ方向で終結する。小泉毅容疑者が警視庁にレンタカーで乗り付けて自首したのである。レンタカーの中からは足跡と一致するスニーカーや血の付いた刃物数点が見つかった。
犯行動機は、犬を保健所に殺されたから。調べによると30年前小泉容疑者のペットが保健所で処分されている。しかし、30年後次官経験者を殺傷するという動機につながるのかは、かなり曖昧な点が多い。自首するきっかけは、警備が強くなったからこれ以上不可能と思ったという、また犯罪者にありがちな短絡的動機によるものであった。
さて、この事件。報道を追ってみるといくつかの疑問点が当たる。まず、何でこの時期に、それも30年以上経ったペットの死をネタに元事務次官を二人も襲撃するのか。なぜ突然自首したのか。そして公も簡単に住所を調べて襲われる治安の悪さ。とにかく釈然としない感覚が抜けないのは事実である。何よりも、単なるクレーマーの一般人がどうして鮮やかに人を殺すことができたか。その手口と言うよりは、プロを思わせる殺傷技術は、単なる一般人ではあり得ない話である。
まず、この事件の釈然としない部分を分析してみよう。法律的に犯罪は「罪刑法定主義」「違法性」「責任」の三種類で構成されている。要するに法律であらかじめ決められ、その行為に違法性があり、そしてその被疑者に責任がある場合に罰せられるのだ。
法律であらかじめ規定がないと言うことでは、危険運転致死傷罪ができる前の交通事故が良い例だ。東名高速の事故など明らかに加害者に問題がある場合も過失致死でしかない状況であった。
違法性がないとは、刑法に書かれた状況であっても、違法でない状況があれば罪に問われないと言うことだ。正当防衛や緊急避難などが挙げられる。要するに、自己防衛を行っているときに最低限相手を傷つけても、元々の加害者から守るという目的があり、違法性がないと言う判断になるために処罰されないという法律の規定だ。
もう一つは、その人に責任があるかないか、と言うことである。よく犯罪者で精神鑑定をしているのはこのためだ。精神病で自分の行動に責任をとれない人が犯罪をしても、責任能力がないという事で処罰されない。
ここで言う処罰されないとは、要するに少なくともその罪で無罪という判決を得ることができるという事だ。それでよいのかという議論は常にあるが、一部の例外で多くの法律の処罰体型を変えては行けない。刑事事件に関する基本的人権は憲法31条に規定されているのだ。
これに対抗するために、警察・検察は犯罪行為の立証、(罪刑法定主義)と違法性判断(状況と動機の確認・計画性の有無)、そして責任能力の有無(計画性や準備行動)を確認するという捜査を行うのである。
今回の事件は、その中において非常に謎の多い事件である。まず、動機がはっきりしない。また計画性は疑えるが、動機や意志がはっきりしないと言うことは責任能力を問えない可能性も少なくないという事である。もっといえば、たとえば背後に巨悪がいたとしても(もちろん仮定であるが)まったく見えない構造になってしまう。日本人は非常に「勧善懲悪」が好きだ。テレビの水戸黄門が何代も変わりながら、誰がやっても人気を博しているのはそのためだ。それだけでなく、たとえば会社が倒産したり、経済状況が悪化したりとしても、誰か一人巨悪がいて、その巨悪に群がる利権構造がいて、それを正義をもつ社会が制裁に近い処分を下すという報道が少なくない。それでもうまく行かないときは、より一層大きな「裏の力」が働く事によって、阻止されたというストーリーが作られる。
私の経験で恐縮だが、マイカルの倒産の時もそのような報道がされた。私はマイカル社内にいながら、「シロアリのような多くの無責任社員が、巨木であるマイカルという会社を食いつぶした」と思っている。経営陣は根と実を一生懸命充実させていた。外から見た巨木の姿も立派であった。しかしシロアリと化した社員が会社を空洞化し、完全に食い尽くし、根や実だけでは巨木を維持できる状況ではなくなってしまったのだ。しかし、報道は全く異なる。故小林敏峯という会長が、そして宇都宮浩太郎という社長が、また他の経営陣が使った、または先見性のない放漫経営をしたために倒産したとなった。まさに「経営陣と言う巨悪」が「善良なる従業員を巻き込んで」社会的な存在の会社をつぶしてしまったという報道だ。本来の悪が変わってしまい、「シロアリ」が「善良なる従業員」に変わってしまった報道はさすがに苦笑せざるを得ない。マイカル倒産の報道はそれで終わらない。その後、アメリカのエンロンが社会問題化し、アーサーアンダーセンという会計事務所が崩壊すると、その会計事務所を使っていたマイカルの倒産も「アーサーアンダーセンが食い尽くした」と報道する。その後、アーサーアンダーセンの背後には、ユダヤとか、なんとか、とにかくアンタッチャブルなより大きな巨悪がいて、マイカルはその波に飲み込まれたという。マイカルの経営者は、そのアンタッチャブルな組織の手下であったと。マイカル、それも本社組織にいた私にとっては、ここまで来ると現実を離れた空想物語でしかなくなってしまっている。フィクションとかそのレベルを遙かに超えた物語でしかない。その物語が平気でジャーナリストの手で報道されている姿は、日本の報道と、日本人のそれを喜ぶ体質に、あきらめの感情しかなかった。マイカル倒産から7年経つが、現在その報道を覚えている人も少ない。一瞬でブームが来て、社会問題化し、空想物語で盛り上がり、そして何事もなかったかのように記憶すらなくしてしまう。これが日本人の好きな形だ。
マイカル倒産で話を逸らしてしまった。話を元に戻そう。日本人の好きな形を今回の事件ではどうしても感じてしまう。裏の力がなにかはわからないし、情報があるわけでもない。しかし、小泉容疑者の異常性やその謎の犯行までの経歴、それらが解明できなければ、今回の事件を完全に解明できないと考える。つまり、謎な部分を残して「罪刑法定主義」「違法性」「責任」を全うできる物ではないし、また、その計画性が有りながら計画の半ばで、自首と言う形で途中で止めてしまった理由がわからないままになってしまう。もしも背後に見えない巨悪がいるとすれば、当然にその日本人の特性と日本の報道の特性・弱点を巧みについて、小泉という異常性を持った容疑者を作り出すのかもしれない。私にはわからないが、明らかでない部分が多い事件という物は、そのような確率があっておかしくないという結論がでてしまうのである。
では、巨悪が誰かと言ってしまうと、この文書もフィクションの物語になってしまう。それもおもしろいかもしれないが、あまり私の好みとは合わない。ただ、日本の警察の捜査において、半端な捜査ではなく心理や主観をのぞく多くの部分を明らかにして欲しいと願うものである。
逆に「巨悪がいない」ということも十分に考えなければならない。全てにおいて偶然は存在する。奇妙な偶然の一致は、あり得ない話ではない。強いて言えば偶然を司る神とか、そのような存在が「巨悪」である可能性もある。そのことを考えなければならない。
警察の捜査に関して長くなったが、被害者に対する気持ちをそのままに、その次の話題を行うことにしよう。
起きてしまった事件はどうしようもない。問題はこのような事件が起きてしまった社会的背景の分析と、その分析に基づいた再発の防止を行わなければ、政治はなにをしていたのかという話になってしまう。
完全な巨悪の存在を求める日本人は、巨悪を取り除けば元に戻ると思っている。しかし、小泉容疑者を作った社会的な環境はそのまま存在するのだ。本当の巨悪は完全にそれを生み出す社会環境であるといえる。
では、小泉容疑者を生み出した社会環境とはなにか。様々な要因が考えられるが、ここではあえて一つに絞って話してみたい。それは、もっとも日本人らしい「無関心」であろう。報道の範囲でしかないが、異常な常習クレーマーに皆しっかりとした対応をしていない。実に、その対応は「臭い物には蓋」と言う対応であり、その社会性が完全に乖離している。このような事件になっても「関わり合わなくて良かった」という雰囲気が伝わってくる。
社会共同体が崩れて久しい。都市生活と都市生活者における「核家族化」を越えた「個体化」が進んでいる。それに伴い近所における無関心と、「社会の目」の欠如が大きくなってきている。道徳とか修身といった事が敬遠され、義務意識の欠如した権利意識だけの人が増えた。当然に、隣の人への関心が全くない社会ができあがり、より一層個体化が進む。
社会共同体の欠如は、異常犯罪を生み出す。本来ならば、それを事前につみ取る社会的な抑止力があるが、今の日本、事に都市部には存在しない。
政府は、これら犯罪に対して、単に異常者として片づけるのではなく、また警察などの警備強化をするのではなく、そのような犯罪が怒らない環境を作るという作業が必要になる。このように言うと、すぐに犯罪予備軍のリストアップと隔離という議論が発生する。しかし、たとえば懲役刑の刑務所を出所しても、再犯率が高いという事実は消せないし、その再犯罪の防止措置は「保護司」と言う職業しか存在していないのも事実だ。上記のような「個体化」の進んだ都市生活者において、まだ道徳社会・大家族制が生きていた時代の制度を適用しても効果が薄いと言うことであろうか。
とはいえ、今の都市生活を大家族制に戻すのはかなり難しい。経済状況や仕事面で、そのことが困難になっている。特に職業が世襲でなくなった今日において、親の職と子供の職が地理的にも職種的にも異なることは通常だ。政治家の世襲が奇異に見られるのは、このような背景もあるのかもしれない。住環境、職環境、金銭環境に社会環境全てが異なれば同居は難しいし、そのために、それら環境を全て変えることは難しい。
犯罪の未然ぼうしと犯罪予備軍の事前監視は、現在の住環境を元に考察しなければならない。当然に地域社会での取り組みや声かけが必ずしも効果を上げるものでもないが、逆に官憲に任せておいて犯罪が未然に防げるものではない。
私個人の意見では、公務員およびその天下りの地域コ共同体への参加と達成率の提示をさせるべきで、その内容から「第二の就職」を地域ですればよい。また、道徳教育の復活。事に倫理観を子供の頃から植え付けること。このためには道徳のない教員の懲戒と言うことも含めなければならない。完全に個人的な意見であるが、国家という大きな共同体に参加できない教員は、小さい単位の共同体の維持や作成もできないであろう。共同体ができない教員が道徳やボランティアを語っても、信用できないのではないか。それら資質のない教員の懲戒は必要である。蒸し返すようであるが、田母神論文を批判するのと同じで、個人の主張は良いが、教師という立場で、国家を否定するのは許せないのではないか。某新聞が、田母神の論文を避難しながら、日の丸君が代を否定した教師を絶賛するのは、組織と立場という意味で、論理が破綻していると思う。そこまで解説して論評すべきではないだろうか。
話がそれたが、外国では、宗教的倫理観があり、日本にはそれがない。倫理観が完全に破綻していると言うことと、そこに対する監視ができないという事が、現代の問題の多くに根付いている根本の問題である。中曽根元首相が中教審において「教育は国家百年の大計」と語ったが、戦後65年でここまでモラルハザードが進むとはだれが予想しただろうか。先にも述べたように、マイカルの倒産もモラルハザードが一つの原因であるといって過言ではない。現在のイオンの危機に関しても同様である。
政府に関しては、まずこれら国家百年の大計を示し、10年後30年後100年後の日本のあるべき姿を示して改革に着手してほしい。そのための財源として税制も語るべきであるし、政策も立てるべき。外交も同じであろう。
国家のことを考えない野党のことなど気にせず、この国のすべきこと、今の政府のすべきことをしなければならないのではないだろうか。何度も繰り返すが、犠牲者の冥福を祈りながら、このような犯罪が起きないような社会の「しくみづくり」を急いでもらいたい。
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